「
槿花一朝夢」同様、儚い栄枯盛衰のたとえに「黄粱一炊夢(こうりょういっすいのゆめ)」がある。
私は能「邯鄲(かんたん)」で「黄粱一炊夢」や「邯鄲の枕」等の成語を知った。
能「邯鄲」は、唐代の小説「枕中記(ちんちゅうき)」を原典とする「太平広記二十五 黄粱夢事」に拠るので、「枕中記」とは若干話が異なる。
「枕中記」の梗概
開元年間、道士呂翁(りょおう)が旅の途中邯鄲の宿に立ち寄る。通りかかった若者
盧生(ろせい)が身の不遇を嘆くを聞いて枕を授ける。盧生がその枕で眠ったところ、
進士にあがり、左遷され、呼び戻されと紆余曲折の末、将軍や宰相にまで上りつめ
た後に死す。日頃の欲望が叶えられたわけだが、それは宿の主人が炊く黍の未だ
炊けぬ間の一瞬の夢であった。
「枕中記」で炊いているのは「黍」であるから、「黄粱一炊夢」は「太平広記」や能「邯鄲」の「さて夢の間は粟飯(あわいい)の一炊の間なり」が出処であろう。
「槿花一日榮」にしても「黄粱一炊夢」にしても、日本で広く人口に膾炙されるに謡曲の果たす役割が大きいようだ。
補足 黄粱:大粟のこと
邯鄲:戦国時代の趙(ちょう)の国(紀元前403~228)の首府
開元:唐代の年号(713~741)、玄宗の治世
参考文献 「枕中記」(新釈漢文大系44 「唐代伝奇」 明治書院)
「枕の中の世界の話」(中国古典文学大系24 「六朝・唐・宋小説選」 平凡社)
「邯鄲」(新 日本古典文学大系57 「謡曲百番」 岩波書店)
「邯鄲」(金剛流謡本、檜書店)
予告 「邯鄲」つながりで「
邯鄲の歩(あゆみ)」(19年8月4日)
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