子供の頃、絵本「牛若丸」で五条橋を行く牛若丸の「
被衣」姿を子供心に美しいと思った。
また、常盤御前が3人の若君を連れて雪中を逃げる姿や「一寸法師」のお姫さまの衣装も優艶だと感じていたが、あれを「虫の垂れ衣」と云う。
虫の垂れ衣
婦人の外出の時に用いたもの。
薄い布を笠のまわりに縫い付けて長く垂らし、頭・体を隠したもの。
(「古語辞典」旺文社)
「
御高祖頭巾」で「夜目、遠目、傘のうち」に御高祖頭巾を加えたい、と書いたが訂正する。
傘のうちの範疇、少し隠れている、に御高祖頭巾・被衣・虫の垂れ衣などを入れねば加えるものが増え過ぎる。
さて、黒澤の「羅生門」、京マチ子の虫の垂れ衣姿も印象的である。
三船敏郎演じる多襄丸が昼寝をしていると、武家の夫婦、森雅之が口を取る馬の背に横座りする京マチ子、が通り過ぎる。
そのまま、何も起きないはずであった。
その時、ふわっと風が虫の垂れ衣をまくりあげ、女の顔が仄見えて、多襄丸は女を奪う。
この時、風が吹かなければ、いや、端
ハナから女の顔が露わであるならば、事件は起こらなかったであろう。
源氏物語でも、子猫の首紐で御簾が跳ね上がり、蹴鞠を見ている女三の宮の姿を、柏木が垣間見た為に不義が起こる。
ぼんやりと、はっきりとは見えないものを美しいと云うが、本来見えないはずのものが見えた時も、男は心をかき乱されるようだ。
(つゞく 「
續 虫の垂れ衣」)
←click! (クリックいただくと、ランクアップ) ありがとう。