
(つゞき 「
引千切」)
ひっちぎりを「珠母(阿古屋)
アコヤ」とも云うのは、その形が珠母貝(阿古屋貝)すなわち真珠貝に似ているからである。
『利休百会記』
同日
(緑水庵註:天正十八年八月十八日)昼 (略)

一菓子 あこや しいたけ
十日
(緑水庵註:天正十八年十一月)朝 (略)
一菓子 しいたけ ふのやき あこや
緑水庵註:天正18年(1590)
『日葡辞書』(1603-1604)
acoya ある種の、米の粉で作った団子

『御前菓子秘伝抄』(1718)
あこや
※1右同断。但し、むし申候間、上に
あんを付申候。但し、なりはいかにもちいさき
※2こふしの貝のなりに作り申候。
緑水庵註
※1:よりみづと同断、うる上白米を一粒つゝゑり、
一時程水にひやし、水うすにてはたき、絹ふるひに
かけ、湯にてこね、なりを作り申候。
※2:拳の貝とは拳螺サザエのことなので誤りと思 上:あこや(A) 下:あこや(B)
われる。あるいは常節トコブシの間違えか。 中:珠母貝がないので金箔貼りの桧扇貝で
『類聚名物考』飲食 二 餅 造菓子(1753-1779年頃成立)山岡浚明
マツアケ著
あこや餅 利久翁百会の茶の菓子に出せり 今云ふ
いただきといふ物 伊勢の国
にては今もあこや餅と云ふよし (略)あこや貝に似たればいふにや
『円珠庵雑記』(1818)契沖著
伊勢では、ちひさううつくしき団子をうりありくとて、あこやゝゝゝめさぬかといふよし
『御前菓子秘伝抄』のあこやは真珠を抱えた貝(A)を、『利休百会記』『日葡辞書』『円珠庵雑記』は真珠そのもの(B)を模していて(『類聚名物考』は判断できない)、「ひっちぎり」の原形は(A)である。
あこや2種(A)(B)を文献から再現、(B)は桃山時代として唐三盆の敷き砂糖を想定、どちらも正確かどうかは判らない。
ここまで書いてきて何だが、「あこや」と聞くと真珠貝よりも先に「阿古屋琴責」を連想してしまう。
「阿古屋」は『壇浦兜軍記』に出る遊女の名だが、真珠の如き女という意なのだろうか。
(つゞく 「
花供御 その1」)

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