過日、五島美術館へ行った。
よみがえる源氏物語絵巻
現存の国宝十九図を、科学調査を駆使し
復元模写を試み、その全作品完成を記念した展観である。
その復元過程を、NHKスペシャルで5回ほど、シリーズ放映していたので、TVで目にしている方も多かろう。
私は、シリーズ全てを見ていないと思う。
この度、DVDが発売されるので、私の身近で購入なさる方に、拝借をお願いしておく。
私が印象深く感じた多くの中から、二点あげる。
「柏木三」、源氏に抱かれた不義の子薫の手は、下絵の段階では現状と異なることが、
X線撮影で判明している。
下絵で源氏の愛を求めるように仰いでいる両の手は、出来上がった絵では、おくるみの中に納まっている。
もし、下絵通りであったとしたら、赤子の無邪気な可愛さが先にたち、また伸ばされた手が画面に動きを与え、緊迫が失われる。
この静寂ゆえに源氏の心の乱れが強調され、何んとも云いようなない無常観がある。
「御法」、銀の庭は月明かりの表現だが、
顔料分析により左上に群青が検出されたそうで、暗闇、心の闇までが押し寄せていることを暗示している。
風が出て、月は雲隠れ、草木や室内の御簾を吹き靡かせ、源氏の心をも揺さぶる。
それは、死に行く紫上への愛、後悔、悲しみを表現している。
掻き乱れた源氏の心を、ある時は
静寂で、ある時は
動乱で表現しているところに、絵師の技量が伺える。
日本絵画は、どとらかといえば
現状模写が多く、私は復元模写をあまり見たことがない。
第1回放映で、本歌から鮮やかな模写へ徐々に変わる演出の時、思わず身を乗り出した。
NHKを見ずに、この展観で初めて模写を拝見していたら、衝撃を受けたと思うが、そういう意味での感激は薄れている。
追記 顔料分析といえば、光琳の紅白梅図の下地が金箔のように見せていることが判明して、研究者達も驚いたそうである。
今後さらに、科学的調査で、これまでの定説が覆されてゆくのであろう。
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