練香(平安時代は「薫物
たきもの」の一種)と云うと、『源氏物語』の「梅枝」が引き合いに出されるが、さすがに王朝の雅びが匂い立つ見事な描写である。
長文になるが、味わってみよう。
(原文)
御裳着のことおぼしい御心をきて、世の常ならず。東宮も、おなじ二月に御かうぶりのことあるべければ、やがて御まいりもうちつゞくべきにや。
正月のつごもりなれば、公私のどやかなるころをひに、
薫物合はせ給。大弐のたてまつれる香ども御覧ずるに、なをいにしへのにはをとりてやあらむ、とおぼして、二条院の御倉あけさせ給て、唐の物ども取り渡させ給て、御覧じくらぶるに、(略)。
香どもは、むかしいまの取り並べさせ給て、御方ゞゝに配りたてまつらせ給。「二種づつ合はせさせ給へ」と聞こえさせ給へり。(略)方ゞゝに選りととのへて、
金臼かなうすのをと耳かしがましき頃なり。
(新日本古典文学大系21 『源氏物語 三』岩波書店)
(梗概)
源氏は明石姫君の裳着の準備に忙しい。東宮(朱雀院の皇子)の元服、いづれも二月。間をおかず、姫君は東宮に入内するのであろう。
一月末、源氏は裳着の用意に薫物の調合をする。宋貿易を統括する太宰大弐から献上された香木を見て、昔の香より劣っているのではないかと思い、桐壺更衣(源氏の母)から伝領した二条院の倉を開けさせ、唐渡りの品々(綾や金襴など)を取り寄せる。
香は、二条院の御倉のと大弐が献上のを取り揃えて女君達に配り、「二種づつ薫物を調合してください」と依頼する。それぞれの女君の所で、薫物の材料を精選して、それらを搗き砕く鉄臼
かなうすの音が耳にうるさいこの頃である。
(緑水庵註)
薫物合はせ : ここに云うのは「根合」「歌合」など優劣を争う遊戯「合せもの」ではない。
後述される兵部卿が判者となって薫物に優劣をつけるのは「合せもの」に近い。
鉄臼 : 現在は乳鉢を用いる。12月の「練香教室」もおそらく乳鉢(
参照 「
練香1 練香教室
ご案内」)。
参考文献 新編 日本古典文学全集22 『源氏物語 三』
(つゞく 「
『源氏物語』梅枝2」)
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